ミャンマーの最低賃金について明らかになる

最低賃金策定委員会は、(その規定を)8月末から発効させるため、一日3,600チャットの基本給を2015年6月に暫定的に発表したが、工場労働者及びオーナーは賃金についての議論を続け、賃金が制定されれば工場を閉めると述べる外国人オーナーもいる。

真昼の日差しに対する日よけとして明るい色の傘を広げながらHlaing Thaeyar地区の縫製工場の外の縁石に12人ほどの若い女性が座り込んでいる。
彼女らは仕事へ応募するため中に入ることを望んでいる。何人かはすでに近くで働いているが、United Knitting社が技術を持たない労働者に一月90,000チャットという比較的高い賃金を与えていることを聞き、転職を望んでいる。
ミャンマー労働組合連盟のメンバーでありTai Yi基礎労働組合の書記U Thet Hnin Aungによると、ヤンゴンで半熟練の縫製労働者のひと月の平均給料は、95,000チャットで、基本給の40,000チャット、ほぼ同額のボーナス、工場オーナーの裁量による各種手当が含まれる。
「彼らは通常、ボーナスを支払うが、保証はない。私たちが一日休んだ場合、彼らはそれらの支払いをやめることができる」と彼は述べた。
全国レベルで三者が参加した組織が、ミャンマーで初めての最低賃金案の詳細をまとめる来月末には、これは変わっているだろう。2015年6月29日に最低賃金策定委員会は、一日3,600チャットの基本給を暫定的に発表し、2か月間コメントを受け付けた。
それ以来、工場労働者とオーナーはこの金額に関し熱烈な議論を交わしており、オーナーは2,500チャット以上は払うつもりはなく、労働者は4,000チャットの最低賃金額なら合意すると述べている。韓国及び中国からのビジネス関係者は、生産性が低いこととインフラが整っていないことから、すでにコスト高であり、3,600チャットの賃金が制定された場合、自社の工場を閉鎖すると脅している。
労働者にとっては、インフレと不安定な生活必需品価格は、低い給料では、生き残ることができなくなることを意味する。現在の賃金では、ヤンゴンにいる多くの労働者は、工場の壁の外で、竹とプラスチックシートで作られた建物に住むことを強いられている。何人かは、水が淀んでいる巨大なプール-デング熱を運ぶ蚊の繁殖地になっている-の横に住んでいる。医療サービスを受けるという選択肢は限られており、高価である。

帳尻を合わせる

白熱した意見が交わされているにも関わらず、多くは行き詰まりを破ることは不可能だと述べている。労働者の生活水準を改善しながら、工場オーナーも幸せにするために多くのことができる。
まずは、残業代の仕組みの再交渉を行うことだとミャンマー縫製業協会(MGMA)のプロジェクトマネージャーJacob Clereは述べた。ミャンマー法によると、雇用者は残業代として一時間当たり基本給の2倍を支払わなければならない。これは同地域の他の国の1.5倍と比較される。さらに近隣諸国の週当たりの労働時間48時間と比較して、ミャンマーは44時間である。
「ミャンマー法では現在、地域内で高額の残業代を規定しており、高い最低賃金は工場が残業を行う場合大きな増額となる」とClere氏は述べた。「他が変更されない限り、提案された賃金構造はミャンマーがべトナム、バングラデシュだけでなく他の国々と比較して競争力を失うことになる」。
また、工場オーナーは最低賃金を固守するが、ボーナスを減らしたり無くしたりすることを提案する人々もいる。
この給料構造では、以前のひと月20日間の基本給72,000チャットに、裁量による手当及び残業代を追加したものとおおよそ同じ給料のままだろう。労働者はボーナスがごまかされたと思うかもしれないが、それはまた、出勤を確実にするために工場オーナーが飴と鞭の方法として利用する機会も減らすことになるだろうと、ある国際NGOのミャンマー代表者は述べた。
多くの工場は、委託加工(CMP:cut, make, pack)のシステムで運営しており、純粋に労働者に多くの給料を支払う余裕がないため、妥協がなされないとならないとMGMA事務局長のDaw Khine Khine Nweは述べた。オーナーは、原材料費の約10%の固定額の収入を得ている。不十分なインフラは、他の国よりも高い物流費用がかかることを意味していると彼女は述べた。
結果として地元にある縫製工場は平均して赤字である。「給料額が合計収入の70%から80%を占め、他の経費は約50%である」と彼女は述べた。
最低賃金が導入される前でさえ、工場のオーナーは競争力のない工場を閉鎖してきた。
「昨年多くの韓国、中国のビジネス関係者が多額の損失を生み出したため、自社工場を閉鎖し立ち去った」とDaw Khine Khine Nweは述べた。

生産性を高める

労働者、NGO団体、工場オーナーによると、訓練及びインフラへの大きな投資が、縫製工場が運営し続け、安全を提供し、良い給料と長期雇用を可能にするために必要である。
「中国の生産性は、ミャンマーの3倍で、ベトナムは2倍ほど高い」とDaw Khine Khine Nweは述べた。「決められた時期に出荷することは私たちにとって難しいが、私達は予備の予算はないし、遅延した場合に、商品すべてに対する補償を支払う余裕もない」。
米国の経済制裁が課された2003年に、ミャンマーの工場は閉鎖され技術を持つ労働者は外国、主にタイ及びマレーシアに移った。タイで、縫製労働者は一日の最低賃金500バーツ(10米ドル)が支払われないことが頻繁にあるが、特に、付加価値産業では、ミャンマーよりも稼ぐことはできる。結果として、ヤンゴンの工場には訓練されていない労働者が残り、生産高を増加するために悪戦苦闘している、と、Daw Khine Khine Nweは述べた。
一方で、労働者は、オーナーが研修を提供したがらないため、労働者の定着率が低いと主張している。「いくつかの研修プログラムがあるが限られており、労働者は技術を習得しても給料が上がらないため、技術を身につけると同時に去っていく」とTai Yi基礎労働組合のリーダーDaw Moe Waiは述べた。
オーナーは研修と競争の繋がりを理解すべきだと、10年間ミャンマーの縫製を調査した、東京に拠点を置く政策研究大学院大学の研究者、工藤年博氏は述べた。「生産性の向上は賃金の上昇を埋め合わせることができ、賃金が上昇しても、産業は競争力を保つことができる」と彼は述べた。
しかしこれには、民間セクターと政府の更なる協力が必要であると彼は述べた。
「短期的には、工場は厳密な内部訓練プログラムを作るべきだ」とClere氏は述べた。
長期的には、MGMAは10年計画をドラフトし、外国政府及び機関とともに、訓練システムの改善を行うために取り組んでいる。「私たちは、能力証明書を発行するために、国家技術基準局(National Skill Standard Authority)とも協力している。この証明書は、工場の適正な給料を決定するために役立つだろう」とDaw Khine Khine Nweは述べた。
「だがこれを行うには時間が必要である。当分の間は2,500チャットの最低賃金を受け入れなければならない。3か月間で生産性が上昇した場合、2,800チャット又は3,000チャットに上がる。6カ月後には4,000チャットにする。それは私たちがどの程度協力し、共に働くかによる」と彼女は述べた。

インフラ面での挑戦

競争力に対する他の主要な壁は、ミャンマーのインフラの古さである。ミャンマーは世界銀行が2014年に示した物流パフォーマンス指標(LPI)で160ヶ国の中145位で、アジアの中で最低スコアであった。
「私たちはインフラ及び物流システムが不足している。私たちの生産ラインは非常に高額で時間がかかる、時間はお金である」とChindwin Banner社の代表取締役でありMGMAの理事であるU Myint Soeは述べた。
「すべてが輸入品であり、ここで購入できるのはコットンボールと輸入材料で作られた高密度のポリエチレン(HDPE)バックだけである。私たちは糸さえ持っていない。この輸入への依存はCMPにとって危険である。」
国内通貨価値の下落により輸入コストは上昇しており、中央銀行の公式レートでは、年初めから米ドルに対してチャットは9%下落しており、市場レートでは17%下落している。また、インフレについても懸念しているとDaw Khine Khine Nweは述べ、国際通貨基金によると約8%の上昇となっている。
「私たちは変動を心配している。労働者は、オーナーが支払えないことを知りつつも、高い最低賃金を要求している。なぜなら生活費が上昇しているからである。私たちが支払いに合意し、上昇し続ける生活費を制御できない場合、何が起きるだろうか。誰かがコントロールしなければいけないが、何の取り組みも見られない」と彼女は述べた。
政府が、最低賃金を通じて労働者の支援を約束するのであれば、外国企業に留まってもらうための、他のインセンティブを提供するだろうと多くの人が信じている。「バングラデシュでは、政府が産業への支援を行っているため、CMP形態から離れることができる工場もある」とDaw Khine Khine Nweは述べた。「ミャンマーは、政府は口頭で支援すると言うが、依然として長い道のりである。いくつかの省は支援する意思はあるが、他の省は強硬である。」
コメンテーターによると、低い税金と汚職調査は外国人労働者に滞在してもらう動機となる。今年初期に公表されたMGMAの報告によると、縫製セクターはこれから10年間で75万もの新しい仕事を提供することができ、そのほとんどは女性で、雇用の93%にのぼる。
「政府は、雇用を創出する主要なセクターとして、縫製セクターを支援するためにできる全てのことをする必要がある。しかしこれは本来の仕事を犠牲にすべきでない」とMyanmar Centre for Responsible BusinessのVicky Bowmanは述べた。
Clean Clothes CampaignのDominique Mullerによると、主な問題はブランドにより設定される最終的な価格である。
「縫製労働者が確実に生活費を得られるように、衣料品ブランドと企業は、サプライチェーン全体を通して、具体的で計測可能な手順を設定すべきである」と彼女は述べた。「ミャンマーで、労働運動と逆の流れの働きかけが成功する場合、ミャンマー政府が公平な経済成長と責任ある投資に向かって進んでいることを証明することが非常に難しくなるだろう」。
Daw Khine Khine Nweにとってこの状況は「戦時の映画を思い起こさせる。」
4人又は5人の兵士が地下貯蔵庫で罠にかかった。敵兵は水を部屋の中に流し込み、兵士は逃げることができなくなる」と彼女は述べ、「私達の産業がこのようになることを恐れている。下からは、コスト上昇の圧力を受け、天井は固定されている。天井を上げる方法を探し、人々を支援することが必要である」。

(Myanmar Times 2015年7月10日版 第6面より)